【七夕】 2014—6.28
★お笑いにもなにもなっていませんが、コメディです★
★おまけにオリジナル設定です。それがおイヤな方は、スルーしてね★
「七夕(たなばた)、ねぇ――」
「そうなの。せんせがねー、がっこうで、そう言ったのっ」
“一生懸命”を顔中に張り付けたような表情で、見上げている息子を見て、その父親は、微笑ましい気持ちになり、だけどまた少し困った気持ちにもなり。そして同時に、どうしてこんなに可愛いのかな、この子は--といういつもの気持ちも沸いてきて、
「よっし。わかった――父さんが何とかしてやろう」
とそのままじっと見つめ返して親指を立ててみせた。
息子は、破顔一笑、という顔をして、「本当っ? やっぱ、父さんだ、すごいや!!」と飛び跳ねんばかり。
「あぁ、約束だ。――なんとか頼んでみるよ」
地球防衛軍の若き艦隊司令殿--古代進は、つい頷(うなず)いて、約束までしてしまったこれに、内心で頭を悩ませながら、にっこりと笑ってみせた。
ふだんあまり構ってやれない息子には滅法弱い――この司令殿の最大の弱点である。
(しかしなぁ――ユキもいないしなぁ。……どうしたものか)
有能な最愛の妻は、長官に同行して海王星に出張だ。あちらの主計プロジェクトに関わるらしいので、10日近く留守になる。そこらへんは“温情”もあるのか、古代は艦と人のメンテナンスでドッグ入り。地球におり、「留守はしっかり、よろしくねっ」とユキに念押しされている。--まさかこんなトホホな用件で泣きつけないではないか。
息子が“友だちのところへ遊びに”行ってしまってから、部屋をぐるぐる歩き回る。
どうにも、良いアイデアが浮かばないのだ。
(まったく、先生も学校も、困った考えを吹き込んでくれたものだ)
普段、歴史や伝統は大切だからよく学べ、と言い、そういったことをきちんと教えてくれるエレメンタリースクールの教師……息子の担任には信頼を置いている古代である。
(しかし、「七夕」って――いったいいつの行事だ?)
10代を戦中に過ごした古代は、それ以前の平和な時代に、笹を作って短冊に願い事を書いた記憶くらいはある。だがクリスマスやお正月、お盆などに比べてあまり一般的な行事ではなかったし、
(……あれって、大陸の行事だったんじゃなかっただろうか?)
ぐるぐる。
ここから何とか逃れる方法はないものか――と古代は往生際悪く、考えてみた。
しかしやはり、子どもとの約束を破ることはできない。
すでに、学校から連絡が来ていて――先ほどのは最後の一押しだったのだ。
(くっそー、俺はこういうのは、苦手なんだっ)
頭をくしゃくしゃとかきむしりたい気分になる。
七夕はまだひと月先である。だが、今頃――こんなギリギリで。
“七夕の歌姫”を、学校に呼ぶなんて、無理だろう?
今、子どもから若い世代に大人気の歌姫がいる。確かな歌唱力と神秘的な雰囲気、それから案外の人懐っこい語り口。素晴らしい曲――彼女のイメージは“星”。そして七夕の織姫のイメージを売りにしていた。
そのためか、今年はやけに“七夕イベント”が目につく。――好景気につながるのだから結構なことだし、宇宙に興味を持って貰えるのはやはり嬉しい。
(織姫と彦星、といったってなぁ――実際には“会う”なんて無理な位置関係なんだけど……)
ロマンチストだが、星や宇宙に関しては現実主義の古代は思う。昔ぁし、「炭素や水素の塊にすぎない恒星をそんな風に考えられるなんて、女って不思議な生き物だなぁ」と、今は妻となったユキに言って、笑われないまでも呆れられたことがある。ましてや天の川は銀河系の中央域にあるのだが……。
天の川へ駆けたい--その想いはわからないでもない。自分も、初めてその宙域に入った時、あまりの美しさに我を忘れた。もちろん、初めてマゼラン宇宙を見た時の感動ほどではなかったが……。
そういったことを知らない現代人はほぼいないだろう。だが、人は宇宙に夢を見るのだ。宇宙の現実の中に身をおいている古代たちだとて、ファンタジーに救われ、呼ばれることだってあるのだから。
当然、その“七夕の歌姫”は、宇宙戦士たちにも大人気だった――。
では何故、古代が困っているか、というと。
彼女=七夕の歌姫――芸名・玲菜パスカルは――(極秘にされていることだが)ヤマトの係累で、(こちらは有名な話だが)“ヤマトの古代”……現在は、第七艦隊アクエリアス艦長の古代進の大ファンなのである。
これは業界でも有名な話らしく、秀麗な若き英雄である古代には、この手のファンがあちらこちらにいる。本人はまったく知らないところで、話が作られ、流通することすらある。本人の知らない相手がほとんどだし、古代は歌舞音曲・メディア情報には一般人以上に疎いので、部下たちや本省でささやかれて知ることもあれば、まったく知らないままのこともある--それほどに、古代進の名は、いまだカリスマで、知らぬ者が無い。
彼女とは一度、会ったことがあった。
表向きは、「一日艦長」のような行事だった。アクエリアスではないが、古代が案内する形で軍の広報のような仕事だ。――部下や後輩にサインを頼まれて、それでも律儀に彼女にお願いすると、逆に自分のサインを頼まれて困惑した。
父親がヤマトの関係者だった――らしい。だが、それだけだ。
ともかく熱烈な古代贔屓であることを隠そうともしない。だから知らぬ者もないというわけだ。
「プロダクションの方に正式にお願いしてみましたが、『古代さんと会わせていただけるのなら』ということでしたの」いけしゃぁしゃぁ、という感じで担任が言う。
「はぁ……」と古代。
「ですから、何とかお願いしてみていただけないでしょうか」
「はい……」
息子がファンなのは知っていた。古代が会ったなど言ったら恨まれそうである。
どうにも逃れられそうにない。
古代は(はぁぁ……)とため息をつくと、ヴィジホンに手を伸ばし、渡されたプロダクションの連絡先を呼び出したのだった。
古代も佐官だから秘書官がいるのだが、公私は分けねばならない。これは“私”の部分だ、と思うと、心が重い。……でもまぁ、息子との約束には弱いのである。
・・・
7月7日は幸せに過ぎた。
全国的に雨である。――メガロポリスは天井を閉じればコントロールもできたが、極力自然はいじらないようになって久しい。
だが、守の学校(だけでなく数校の合同だったようだ)とその関係者たち2,000人余は、興奮のひと時を過ごした--約1名、古代進を除いては。
古代は結局、関連イベントとしてアルタイルやベガ、天の川宇宙のレクチャーをすることになり、「こういうのは苦手だ」と辞退したが、これもやはり、息子のキラキラ目に見つめられて落ちた。……レクチャーそのものは上手く行き、子どもたちも喜んだし、歌姫にもハグされて、、、もう、二度とするもんかっ、と内心思ったというのは内緒である。
・・・
「あらぁ。そんな面白いことがあったの? 私の留守中に」
帰宅したユキに愚痴と報告を兼ねて告げると、ユキはふふん、と笑った。
「知っていたわ――PTAから連絡が入るの。私が来られなくて、どれだけ残念だったか」
「……意地悪言うなよ」夫は拗ねてみせた。「大変だったんだからな」
くすりと笑って、ユキは首に手を回し、ちゅ、と額に口づける。
「お疲れさま。……守ももう大喜びだったみたいだし、今回は、ご自分で全部やって、たいへんだったわね」
実は、相原には少し手伝ってもらった。……だいたいこういう手配とかなんとか、苦手なんだよっ。
守はもう寝たのか、というとぐっすりよと妻は答え。笑いながらユキは、「はい、お茶」とテーブルに置き、自分も横に座った。
「それでもね」ゆっくりと見上げるように寄り添う。
「ん?」
「私たちも織姫と彦星みたいに、遠かったわね」
「あぁ……」
そういえば、当日は地球と海王星だった。
だが――安全な、仕事での距離だ。10日すれば、こうして会い、抱き合える。あの時とは、違う……。
「……一度だけ、本当に、遠かったことが、あった」
「あぁ」
それも口に乗せることもない二人だ。――デザリウム戦。ユキが地球に残され、互いに孤独の中で戦った日々。だが天の川に橋はかかり、再びめぐり合い……そうしての今。
「ねぇ、進さん?」
「ん?」
見つめ合えば、言葉は要らない。星の海を渡るのがどちらでも――2人は互いのもとへ還り、織姫と彦星は、離れても、互いの想いを結び合っている。
七夕――少し大騒ぎだったけど、皆、楽しめたならよかったな。そう思う古代夫妻なのだ。
【END】
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七夕の歌姫――玲菜パスカル…♪
ほんのりさせて頂きました!
読み進みながら、玲菜パスカルってどんな歌姫なのかと想像してしまいました(笑)…若き艦隊司令殿にストレートに自分の気持ちを告げられる彼女に好感を持ちましたが、それはさておいて。
ユキの仕草が素敵ですね!
思わず昨日の攻殻機動隊ARISE 3のワンシーンがフラッシュバックしましたが、BD/DVD1,2がまだでも是非是非劇場でepisode 3はご覧ください…♪
心が通じる男女の間では確かに言葉はいらないですね。
見つめ合う時間がほんの少しでも存在するならば、互いに離れていた時間はあっという間に埋めることが可能…互いを信じていればこそなのでしょうが、そんな素敵なイメージを古代君とユキはいつも再認識させてくれる存在だと思います。
相原君がアクセンティックに登場して来るシーンなども個人的には大好きです!
ありがとうございました。
余談ですが、トランセンデンスはもう見られましたか?
先ほど見てまいりましたが、ジョニー・デップの演技もさることながら、量子の海に消失した古代守のリバースのカギとなるヒントが凝縮された素敵な作品でした。
チャンスがあれば、シアターに足を運んでみてください…♪
では、では。